しんちゃーお!
早速ですが、みなさんはベトナムと聞いて何を思い浮かべますか?フォーやバインミーなどの食べ物が一番に思い浮かぶ人、ハロン湾やホイアンの街並みやランタンを思い浮かべる人もいらっしゃるかと思います。
しかし、ベトナムといえば、大勢がバイクに乗っている写真や映像が印象に残っていいる人も多いのではないでしょうか。今回は、バイク大国といわれるベトナムのバイク事情についてお話ししていきます。
ベトナムのバイク事情
バイク大国ベトナム
アメリカの調査機関Pew Research Centerの調査で、ベトナムは世帯当たりのバイク保有率が世界第2位で、ベトナム国内の86%の世帯がバイクを保有しているということが明らかになりました。(ちなみに世界1位はタイ)このことから「ベトナム=バイク」のイメージが定着していることにも納得がいきますが、さらに深堀していきます。
なぜバイクが普及しているのか
そもそも、なぜベトナムではここまでバイクが普及しているのでしょうか。その理由としては、
・電車やバスなどの公共交通機関が未発達であること
・排気量50cc以下のバイク、電動バイクは免許がいらないこと
・車の販売価格が高すぎること
を挙げることができます。それぞれ詳しくみていきましょう。
電車やバスなどの公共交通機関が未発達であること
ベトナムでバイクが普及している理由の1つ目は、公共の交通網が未発達であることが挙げられます。
ハノイ市内やホーチミン市内など都市部では、路線バスが運行していたり、タクシーが街中を走っていたりしますが、郊外になればバスやタクシーは、ほとんど見かけません。都市部でも、多くの人が自分のバイクやセオムと呼ばれるバイクタクシーを利用して移動しています。
ベトナムには、ベトナム統一鉄道というベトナムを縦断する長距離鉄道は存在しますが、都市鉄道は存在していませんでした。しかし、2021年11月に中国の支援でベトナム初の都市鉄道が首都ハノイ市で開業しました。
10年かかって完成したベトナム初の都市鉄道ですが、全長は約13km(12駅)のみで、まだまだ市民の足として機能するにはほど遠いもので、ベトナム人の大事な移動手段である駐輪場が整備されていないなどの課題も解消していません。
排気量50cc以下のバイク、電動バイクは免許がいらないこと
ベトナムでは、排気量50cc以下のバイク(いわゆる原付)や電動バイクは16歳以上であれば免許なしで乗ることができます。そのため高校生などが原付や電動バイクに乗って通学している姿を見かけることも珍しくありません。
高校生以下のこどもの通学に関しては、親が通勤前などに子どもを学校に送り、終わったら迎えに行くという姿もよく見かけます。そのため、始業前と終業後の学校の前は送迎に来た保護者のバイクで混雑するということもしばしばです。
ちなみに、ベトナムの二輪免許は51~175㏄未満の普通二輪(A1)免許と175㏄以上の大型二輪(A2)免許があり、どちらも18歳以上で取得できます。
車の販売価格が高すぎる
日本でも決して安くはない車ですが、ベトナム人からするとさらにハードルが高いものです。ベトナム統計総局が公表している資料によると、2022年第2四半期(4~6月)の平均月収は全国で660万VND(日本円で約万8000円)で、年収にすると7,920万VND(約46万円)です。
海外企業がベトナム進出を進めており、平均賃金も年々増加していますがそもそもの人件費が安いために、車を購入するのはベトナム人にとってかなり高いハードルになっています。また、関税や手数料の関係でベトナムは車の販売価格が世界でもトップクラスに高い国といわれていますので、安易に手を出せないのもうなずけます。
そのため、決して安いものではありませんが、車よりはハードルの低いバイクを購入していると考えることができます。
生きていくためのバイク
公共交通機関が未発達であることで、バイクが市民の足になっていることは前述したとおりですが、現在のベトナムでは生きていくための仕事としてバイクを使っている人が多いです。
冒頭で述べたように、ベトナムの8割以上の世帯がバイクを保有しているベトナムですが、バイクタクシーの利用も盛んです。世帯でバイクが1台しかない場合には、誰かが通勤などでバイクを使用している際に、他の人はバイクを使用できず移動手段がなくなってしまいます。
その時に活躍するのがセオム(バイクタクシー)です。ベトナムの都市部では、GrabやUberなどが普及しており、アプリを使用して簡単にセオム(バイクタクシー)を手配することができます。
流しのセオムを探して、料金交渉をして、頑張って目的地を伝えてという手間が省けるため、筆者もベトナム現地にいるときにはよく利用していました。人々の足となるだけでなく、運転手の収入源になるバイクは、ベトナム社会と切っても切れない関係になります。
日本車が人気
ベトナム人がどんなバイクに乗っているのか気になる方もいらっしゃるかと思いますが、2021年のベトナムバイク市場のシェア率は、ホンダが79.3%、ヤマハが18.9%、スズが0.4%とベトナムバイク市場の98.6%を日本のブランドが占めています。
ホンダが圧倒的シェアを誇っていますが、その背景には、1997年からベトナム現地でのバイク製造を開始し、2022年4月時点でベトナム国内に786か所の正規販売店を構えているなどホンダの長期的な戦略と努力が見てとれます。
道路環境が悪いベトナムでは、故障しにくく、修理・メンテナンスしやすいことがバイクを選ぶ際の絶対条件となっていることもあり、製造・修理・販売をベトナム現地で行うことができるホンダはベトナム人のニーズに合致し、今ではベトナム人からの人気を勝ち取っています。
2030年問題
バイク大国のベトナムで、いま話題になっているのが、2030年問題です。2030年問題とは、ベトナム政府が同年から実施する大都市でのバイク規制に伴って生じるであろう問題のことです。
近年、経済の中心であるホーチミン市などの都市部では急速な経済発展に伴う交通渋滞や大気汚染が深刻な社会問題になっており、首都ハノイ市では「世界大気汚染都市ワースト10」に度々ランクインしているほどです。
この社会問題に対処するため、ベトナム政府は、5つの中央直轄市(ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市、ダナン市、カントー市)で、2030年以降二輪車の規制を実施する行動計画を発表しました。政府の計画では、5都市の中心部へはバイクでの乗り入れを禁止し、バイクの使用の際には課金することが計画に盛り込まれています。
しかし、バイクが普及している理由の一つとして公共交通網が整備されていないことがあるにも関わらず、単にバイクの乗り入れを制限するだけでは、抜本的な解決は望めないのではないかという議論も進んでいます。
バイクが売れなくなる時代が来る?
2030年にバイク規制が本格化することで、バイクが売れなくなる可能性が出てきています。先にも述べたようにバイクは車ほどではないが高級品であり、いざとなれば売って現金化できる「資産」です。
大都市でのバイク規制が本格化すれば、バイクの資産価値が減少する可能性があり、資産として保有する魅力が低下した結果、バイクではなく安価な電動バイクへ流れてしまうことも予想されています。
現在、ベトナム初の自動車メーカーであるビンファストが電動バイク市場に参入し、シェアを拡大してきている。さらにビンファストは電動バイクおよび電動自動車向けの充電スタンドの設置を進めており、本格的なバイク離れを見越した行動を進めていると考えられています。
また、ベトナムではバイク市場が飽和状態に近づいてきていることや平均賃金が増加していっていることも、バイクが売れなくなっている原因の一つになっています。
バイクが故障しにくいということは、買い替える人も少なくなるということを示しており、現在各バイクメーカーは高級車の開発など新たなニーズの発掘を目指して模索している状況が続いています。さらに賃金水準が上がることで、車の購入に手が届く人が増え、バイクから車へのシフトが進んでいくことも予想されています。
おわりに
今回はベトナムのバイク事情についてお話しして来ました。現在ベトナム南部ホーチミン市ではベトナム初となる地下鉄の建設工事が進んでおり、2023年から運行が開始される予定ですが、バイク移動が根づいたベトナムで市民の足となれるかは始まってみないことには誰にもわかりません。
2030年問題もありますので、それなりの効果を発揮する可能性はありますが、ベトナムの名物であるラッシュ時のバイク渋滞を目にすることができなくなるのは少し残念な気もします・
それではこの辺で。
ヘンガップライ