ベトナム人はなぜいつも傘をかぶっている?ベトナムの伝統「ノンラー」の歴史と変遷を解説します

ベトナムの生活
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みなさん、しんちゃーお!

暑い日が続いていますので、熱中症などに気を付けて過ごしていきたいものです。さて今回は、暑さをしのぐために使われている「ノンラー」について紹介していきます。

ノンラー(Nón Lá)

ノンラー(ノン傘)とは?

ノンラーとは、ベトナムで使用されている帽子のことで、ラタニアの木の葉でできたベトナム人(キン族)の伝統的な葉笠のことを指します。ノン(Nón)は笠、ラー(Lá)は葉を意味し、ベトナム現地では、単に「ノン(Nón)」と呼ばれることもあります。

日本昔話の「笠地蔵(かさじぞう)」でお地蔵さまにかぶせてあげる編み笠をイメージしていただければわかりやすいと思います。ベトナム現地では、男性用、女性用が存在し、円錐形のものが女性用で、日本の麦わら帽子のような形(ばいきんまんの乗っている乗り物のような形)をしているものが男性用とされています。

ベトナム現地では、男性よりも女性のほうが使用していることが多く、男性が使用しているのはほぼ見かけません。また、都市部よりも郊外に行ったほうが使用率が上がるのも特徴です。

2015年には、英国の旅行ガイドブック「ラフガイド」の「世界の印象的な伝統衣装コレクション」で日本の着物やスコットランドのキルトなどと一緒に取り上げられたこともあります。

ノンラー用途

耐久性が高く、蒸れにくい造りになっているため、日よけの帽子として使うほか、多少の雨であれば雨除けとして使用することもできます。また、観光客向けのお土産や飾り物として土産物店などに並んでいることもあります。その他、アオザイを着るときの衣装の一部としてかぶられることもあります。

現在では、ベトナム人の若者たちは古臭いものとして認識されていることもあり、日常的に着用しているのは、一定以上の年齢に達している年配の方か、メコンデルタなどの手漕ぎ船の漕ぎ手や観光地界隈で土産ものを歩き売りしている人など観光客相手の商売をしている人くらいです。

ノンラーの種類

ノンラー自体はベトナム全土で作られており、北部ではハータイ省チュオン村などが有名ですが、一番有名な産地はベトナム中部のフエです。フエで作られるノンラーは質が良いだけでなく、透かし模様や刺繍が施されており、その美しさでも広く知られています。

特に、「ノンバイトー」と呼ばれるノンラーは、2層になった葉の間に切り絵などの型紙をはさんでつくられており、光にかざすとフエの情景や詩が浮かび上がるようになっている伝統工芸品です。これらの工芸品を作る職人がフエ近郊に多く暮らしており、それで生計を立てている人の村落もあります。

ノンラーのつくり方

ノンラーは、装飾や模様などに差はありますが、基本的なつくり方は全国共通で、竹を水に浸しながら骨組みを組み上げ、そこに野生のアブラヤシの葉を乾燥させたものをのせ、手作業で骨組みと載せた葉を固めの紐で縫い合わせて固定していきます。最後に、あごひもとしてつけられている布をつけて完成です。

ベトナム戦争の象徴としての「ノンラー」

ノンラーは、黒い農民服と合わせて、ベトナム戦争時の南ベトナム解放民族戦線(通称ベトコン)のイメージとして描かれることが多いです。ベトナムの正規軍ではないベトコンの服装が、当時の農民や市民とほとんど変わらなかったことから、ベトコンの服装として定着したものと考えられています。

日本にもある「ノンラー」

編み笠とノンラーの違い

冒頭で、昔話の「笠地蔵(かさじぞう)」に出てくる「編み笠」をイメージするとわかりやすいと述べましたが、日本にもノンラーに似たものとして、「編み笠」や「被り笠」などの笠があります。ノンラ―と編み笠は何が違うのでしょうか。ノンラーと編み笠の一般的な違いを紹介していきます。

材料

編み笠は、稲や竹などを編んでいき笠の形に仕上げていきますが、ノンラーは竹の骨組みにヤシの葉をかぶせ、それを稲の茎などで固定していくものですので、そもそものつくり方が異なることになります。

あごひも

ノンラ―のあごひもは本体に直接通しているのに対し、編み笠は笠本体に台座(五徳)をつけ、そこにひもを通します。こうすることで頭部の通気性が高くなるだけでなく、しっかりと固定することができます。

また、編み笠はあごひもとして紐を使用していますが、ノンラーはリボンのように幅のある布を使用していることが多く、きつく締めたとしても跡が残りにくいです。

クバ笠とノンラー

みなさんは「クバ笠」という言葉を聞いたことがありますか?クバ笠とは、沖縄で使用されている円錐形の帽子です。骨組みには蓬莱竹(ホウライチク)と呼ばれる竹が使用されており、真竹のように太い竹ではないものの柔軟性に富んでいることからクバ笠以外の竹細工にも使用されています。

笠の部分には、その名の通り、ヤシ科のクバ(ビロウ)が使用されており、経年劣化で味のある色合いに変化します。日よけ以外にも雨よけにも使用されている点は、ノンラーと同じです。

クバ笠には、本島型(海用・畑用)、久米島型、八重山型、与那国型の5種類があり、現在でもそれぞれ使い分けがされています。

本島型の一番の特徴は、本島型に海用と畑用があることです。海用は主に糸満で使用されていた形で、風で飛ばされないように形は小さく、深くかぶれるように笠の部分は高めに作られているのが特徴的です。

一方、畑用は主に首里で使用されていた形で、日光をできるだけ遮るように幅広く作られているのが特徴です。

また、本島型(海用・畑用)、久米島型、八重山型は円錐形の同じような形をしていますが、与那国型は形が違います。

与那国型は笠の部分が高く、頂点が平らになっています。銅鐸のような形をしており、かなり深めに被ることができます。与那国型は、侍(サムレー)が着用していた笠が原型であるとされており、侍が結っていた「まげ」がおさまるようなデザインになっています。

クーリーハット

ベトナムの「ノンラー」と似たようなもので、「クーリーハット」というものがあります。ここでは、ノンラーとクーリーハットの違いを中心に紹介していきます。

クーリーハットとは、日本の竹笠と同じようなもので、竹を編んで作っている円錐形の帽子のことで、19世紀に肉体労働に従事していた中国やインドの労働者クーリー(苦力)がかぶった帽子に似ていることからその名前が付けられました。

現在では、ナイロン製の折りたたむことができるものもあり、釣りやキャンプなどのアウトドアの際に着用されています。ベトナムは、中国の影響を受けている部分も多いため、農作業の際にノンラーではなく、クーリーハットを被っている人も多いですが、見た目だけでは区別がつきにくいです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、ベトナムの伝統工芸品であるノンラーについて紹介してきました。日差しの強いベトナムならではの生活の知恵とも呼ばれるノンラーですが、実は日本や中国でも同じような形の帽子が存在していました。

このことからもわかるように、円錐形というのは日差しを避けるのに最適な形であることがわかります。現在でも、ベトナム現地では日常使いされていますが、それだけでなく土産物や、自分自身で好きな絵柄や文字をつける体験ができる記念品としても使用されています。

みなさんもベトナムに行った際には一度被ってみてはいかがでしょうか。

それでは、この辺でヘンガップライ!