ベトナムは世界でも数少ない共産主義国家であり、国境を接している中国も同じく共産主義国家です。今回は、ベトナムと中国の関係性について説明していきます。
ベトナムと中国の歴史
中国による支配
紀元前2世紀から10世紀半ばにかけての約1000年は、ベトナムが中国による支配下に置かれていた時代であるため、ベトナムの歴史上では「北属期(ほくぞくき)」と呼ばれています。
中国からの独立・フランスによる統治
938年にゴ・クエンが南漢軍を破って中国から独立を果たし、19 世紀初頭にはフランスの支援を受けてグエン王朝(阮朝)が全国統一を成し遂げましたが、その間何度も中国からの侵略を受け、その都度大きな犠牲を払って中国を追い返していました。しかしながら、このような状況の中でも中国の歴代王朝との間で朝貢関係は継続していました。
1884年にフランスの保護国となってから、1954年のジュネーブ停戦協定でフランスから独立するまでの間は、フランスによる統治が行われていました。
中国との新たな関係の形成
中越両国では、それぞれの共産党の指導の下で独立国家が成立することになります。1949年に中華人民共和国を成立させた中国共産党がベトナム共産党の抗仏闘争を支援したことはよく知られていますが、ベトナム共産党も中国共産党の求めに応じていました。
1949年初頭、ベトナム共産党は、中国共産党の求めで、人民解放軍支援のために中国南部への派兵を行いました。この時期の両国共産党間の連帯関係は、独立以前から共に革命活動に従事してきた双方の指導者たちの間の個人的な信頼関係と友情に支えられていたと考えられています。
両国における共産党政権の発足は、越中関係に変化をもたらしました。それまではベトナムが中国に朝貢するという関係でしたが、独立を果たしてからは兄弟のような新しい関係性が生まれました。
しかし、良好な兄弟関係は長くは続きませんでした。
中越戦争での対立
1973年に米軍がベトナムから撤退し、南シナ海に他国の影響が及ばない状態になると、翌1974年(ベトナム戦争末期)に中国は西沙諸島の南半分を武力で制圧しました。
また、1978年にベトナムが中国の支援を得ていたカンボジア(クメール・ルージュ)に侵攻したことで対立を深め、翌1979年には中国軍がベトナム北部の国境地帯に侵攻し、中越戦争が勃発します。中越戦争では約1か月間で中国側が撤退することになりますが、これを機に両国間の外交関係は断絶することになります。
中越戦争の際にベトナム外務省は「過去30年間の越中関係の真実」と題した文書を公表し、1954年のジュネーブ会議において、ベトナムが不利な条件を受け入れるよう中国指導部が圧力をかけたと非難するなど、中国に対する恨みをあらわにしており、ベトナムでは政府指導者のみならず、多くの国民が強い「対中警戒感」と「国防意識」を持つことになります。
このような背景もあり、ベトナムは、平時には友好関係の維持に努めるものの、主権侵犯に対しては断固として戦うというように、中国に対して無用な摩擦は生まないように「本音」と「建前」をうまく使い分けるしたたかな外交を展開するようになりました。
越中国交正常化
両国間関係が再び正常化するのは、ソビエト連邦が崩壊した1991年のことでした。1991年11月の越中国交正常化に当たって出された共同声明には、「越中関係は同盟関係ではなく、1950年代および1960年代の関係には戻らない」ことが明記され、越中関係は、それぞれの「国益」をベースとした、通常の二国間関係として再出発しました。
ベトナムと中国の現在の関係性
国交回復以後の両国の共通努力により、ベトナム・中国の包括的な戦略的パートナーシップが安定的かつ積極的に発展し、あらゆる分野で重要な成果を収めています。
政治分野
政治分野では、高級指導者の交流が電話会談やテレビ会合など様々な形で頻繁に行われ、両国の党と国家の政治的信頼の強化や、両国の友好と互恵協力関係の健全で安定的な発展を促進するための重要な方針を定めました。
また、両国の外交、国防、公安部門、国境地帯の各地方の協力や草の根交流が維持されています。しかし、南シナ海の西沙諸島、南沙諸島の領有権をめぐる争いなどに代表されるように、主権侵犯に対しては断固として戦う姿勢をとっています。
経済協力
中国はベトナムに投資を行っている139の国と地域の中で第6位であり、新型コロナウイルス感染症が大流行していた時期には、中国がベトナムに大量のワクチンを供与し、ベトナムの感染症対策に大いに役立ちました。
さらに、経済的なつながりは両国間の関係が悪化した中でも継続されました。現在でもベトナムは中国から素材や半製品を輸入し、完成品を中国に輸出するという加工貿易が盛んです。また、一般消費財や鉄鋼等も多く輸入されており、経済的には切っても切れない関係になっています。
中国以外の国々との関係性
このように、政治的には対立しながらも経済的には相互依存する関係が現在でも続いています。ちなみに、ベトナムはアメリカや日本、アセアン諸国、欧州諸国などとも良好な関係を維持するという巧みな距離感の外交を続けています。
ここで、過去にはフランスやアメリカとの確執があり、現在でも遺恨が残っているのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
ベトナム人は極めて柔軟で現実的な考え方をする人が多く、自分たちの生活を向上させる経済的発展のためにどうすればよいかを常に考え、過去のしがらみにとらわれることなく、合理的選択のできる人々ですので、必ずしもアメリカやフランスに否定的な見方をしているわけではありません。
まとめ
今回は、ベトナムと中国の関係性を説明してきました。国境を接していたり、同じ共産主義ではありますが、両国は全く違う方針で動いており、完全に依存しあうような関係ではないことがわかりました。実際にベトナムで生活してみると本当に共産主義国家であるのか疑うような場面も目にします。これからの関係性にも注目する必要があるかもしれません。